家賃の滞納が続き、いざ建物明け渡しの請求をしようとしても入居者の所在が分からないことがあります。
そのような場合でも、明け渡しの法的手続きを行わないといけません(家賃の滞納があるからといって勝手に入居者の荷物を片付けるのは、自力執行として違法であり、損害賠償責任を負ったり犯罪となったりすることがあります。)。
どのような法的手続ができるかというと、入居者の所在についてできる限り調査を尽くした上で、家賃の滞納を理由とする明け渡しを求める裁判を起こし、裁判が起こされたことを示す書類を裁判所に掲示してもらいます(公示送達といいます。)。裁判所に行かれたことのある方は見たことがあるかもしれませんが、裁判所にはそのような書類が張り出される掲示板が一般の人の立ち入れる場所(玄関ホールや廊下、建物の外の入り口の脇など。大阪地裁の場合は1階東側の廊下にあります。)にあるのです。
この書類が掲示されて2週間が経過することで、民事訴訟法上、明け渡しを求める裁判の訴状が被告である家賃を滞納している入居者に送達されたものとみなされます。
訴状が送達されると、あとは普通に明け渡しを求める裁判の手続きを進めることができます。普通の裁判の手続きでは、訴状が送達されたのに被告が何の反論もせず裁判に欠席すると、原告の言い分をすべて認めたものとみなされます。
もうお分かりだと思いますが、公示送達で、訴状が送達されたとみなされたとしても、それは法律上届いたものとして扱っていいとされただけで、現実には所在不明の入居者である被告のもとには訴状が届いていませんから、被告が裁判に出席したり、反論をしたりする可能性は限りなく低いのです。
このように、被告が反論もせず欠席した場合は、基本的にはこちらの請求を認める判決が出されます。そして、この明け渡しを求める勝訴判決に基づき強制執行をすることで明け渡しが完了します。
公示送達の手続きを用いるには、本当に被告が物件に住んでいないこと、連絡がつかないこと等を裁判所に明らかにしないといけませんので、弁護士(または弁護士から委託を受けた者)が物件の現地調査を行い、電気・ガス・水道のメーターや郵便物の有無、近隣の聞き取りなどを報告書にまとめて提出します。
このような手続きを経て、入居者の所在が不明な場合でも、建物を明け渡させることができるのです。公示送達の調査など、普通の裁判とまた違った手間がかかるところもありますので、弁護士に依頼されることをお勧めします。