賃料を滞納されているからと言って、家主や管理会社が勝手にカギを替えて入居者を締め出してしまうことはできません。
法的手続きを踏まずに実力行使に出ることは「自力救済」といって、禁止されています。自力救済の禁止というのは、人が法律の定める手続によらずに自己の権利を実現しようとすることを禁止する原則を意味します。自力救済を許すと、権利を実現しようとする人が暴力を用いたり、実は権利が無いにもかかわらず権利行使がなされたりするなど、社会秩序が混乱するおそれがあります。そこで、司法手続が十分に整備された現在の社会においては、私人の権利の実現は司法手続を通して行われるべきであり、自力救済は許されないとされています。
現在の日本は、幸い司法制度が確立された法治国家ですので、いくら相手が悪いからといっても、法的なお墨付きをもらわずに自力救済を行うと、逆に犯罪に問われたり、民事の不法行為として損害賠償を請求されたりすることもあります。
最近では少なくなったようですが、不動産業者や管理業者の中には賃料を滞納した入居者の玄関ドアに「○日までに全額を払わなければ鍵を替える」などと張り紙をしたうえで、その日が過ぎたら入居者の不在中に合いかぎで部屋の中に入り、荷物を部屋の外に出してしまう、さらには本当に鍵の交換までしてしまう、といった荒業をする業者もいるようです。
こういった行為は典型的な自力救済に当たります。
家主の方の中には、家賃の滞納が続くような状況が生じた場合には、1日も早く退去してもらいたいという思いがあり、また、なぜこちら側だけ費用と時間をかけて法的手続きを行わないといけないのか、という心情があることも十分理解できます。
しかし、結局勝手にカギを替えるような力業に訴えてしまうと、法的には入居者から損害賠償請求を起こされる恐れがありますし、なにより、貸主として正当なことをしたのだと胸を張って言うことができなくなってしまいます。
入居者に賃料を滞納されている場合には、変に自分で対応しようとはせずに、弁護士に依頼して、交渉や裁判を行い、できるだけ早く法的な解決を目指すことが必要です。