はじめに
家主にとって店子・入居者が家賃を滞納するのは頭の痛い問題です。家主としては、入居している部屋については家賃が入ってくることを前提に計画を立てています。
家賃の滞納が続くような入居者については、強制的に出ていってもらうことも検討しなければなりません。これが建物明け渡し請求の問題です。
ただ一方で、滞納された家賃の取り立て・回収もやっていく必要があります。明け渡しの問題とは、密接にかかわりますが、家賃回収はまた別の問題です。
明渡請求と同じ手続内で
家賃の滞納を理由に、賃貸借契約を解除し、明け渡し請求を行っていくには、通常は期限を決めて滞納している家賃を支払うように請求し(「催告」といいます。)、それにもかかわらず入居者側が期限までに滞納家賃を支払わなかった場合に、賃貸借契約を解除して明け渡しを請求していく、という形がとられます。
滞納家賃の請求をせずに(無催告で)、明渡請求を行うこともありますが、これは賃貸借契約書に無催告解除の特約がある場合で、なおかつ滞納期間が長いなどの事情がある場合に限られます。
滞納賃料を払ってこない場合、賃貸借契約の解除とともに滞納賃料を請求し、裁判を起こす場合も明渡請求と併せて滞納賃料や賃料相当損害金(賃貸借契約は解除されているので賃料ではなく、不法に占有していることについて賃料と同額の損害金が発生していることになります。)を請求することになります。
そして、滞納賃料等を支払えという判決を取得した場合は、入居者の財産に対して差押え等の強制執行をすることができます。
明渡請求と別の手続きで
もちろん、賃貸借契約解除・建物明渡の話と切り離して、滞納されている家賃を請求していくことも可能です。その場合、通常の債権回収(金銭を支払えとの請求)で用いられる手続きを取ることとなります。
まずは、内容証明郵便を用いて書面による督促を行い、それでもなお支払ってこない場合は、通常訴訟または簡易裁判所における支払督促・少額訴訟等を検討することになります。
通常訴訟、すなわち普通の裁判となりますが、そこでは、入居者=被告が滞納している家賃の金額を、家主=原告が特定し、請求額が140万円以上の場合は地方裁判所に、140万円未満の場合は簡易裁判所に、訴状を証拠と共に提出し、裁判所に判決を出してもらうか、裁判所の仲介のもとで原告と被告が支払額や支払い方法を取り決める和解をすることになります。
少額訴訟とは、簡易裁判所において、60万円以下の金銭の支払を求める訴えであり、原則1回の審理で結論を出してしまう手続です。証拠書類や証人は,審理の日にその場ですぐに調べることができるものに限られています。また、通常訴訟と同様に和解をすることもできます。
支払督促とは、金銭を支払え、といった請求について、債権者=家主の申立てにより,簡易裁判所が一定の審査を行ったうえで支払を督促する書面を発する手続であり、債務者=滞納している入居者が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議の申立てをしなければ、簡易裁判所は、債権者の申立てにより支払督促に仮執行宣言を付し、債権者はこれに基づいて強制執行の申立てをすることができるようになります。
どの手続きを選択するのか、手続きを選択した後も最適な手続きの進め方等、分からないことも多いと思いますので、そのようなときは弁護士にご相談ください。